
匿名
¥500
最近近くに出来たインドカレー屋さんでほうれん草と卵のカレーを食べたのですが、見た目は普通のイエローなのにビックリするほど自分にとっては辛くて水を何杯も飲みました。これからの日本は外国人の方が増えて、そっちの方の味覚に合わせたレストランも増えると思います。そのうち日本人一般が美味しく感じる甘辛などは少数派になり、美味しい味の定義も変化していくのでしょうか?カレーも日本人が好きな日本カレー、日本人が好きなインドカレー、インド人が好きなインドカレー、と何段階にも分かれていきそうです。イナダさんのご意見をお聞かせください。
世界を見渡すと、外国料理は、移民が同郷の人々のために営む屋台やレストランを、その国の人が「恐る恐るお相伴に預かる」形で広まる(というか実際はほとんど広まらない)ことの方が多いのではないでしょうか。作り手が現地の方であれ日本人であれ、日本で日本人をターゲットに外国料理店が営まれ、必要なローカライズが進むのは、どちらかと言うと珍しい方でしょう。欧米でも同じようなことは起こるけど、スケール感が違うと思います。 相談者さんがお気付きのように、日本で外国の方が同郷の人々をメインターゲットとする飲食店が増えているのはその通りで、そういう意味では日本がワールドスタンダードに近づきつつあるということになります。 しかしその一方で、当の日本人は食の保守化が進んでいます。特に若い層ほどその傾向が強いと思います。可処分所得が少ないからとか、他に刺激的な娯楽がいくらでもあるからとか、色々な理由は考えられると思いますが、わざわざ現地そのものの得体の知れない料理に挑戦しようとする人は減少傾向にあると感じています。 旧世代、それこそ我々なんかは、「本場そのままの味こそエラいし、それを理解できるのはカッコいい」みたいな価値観が多かれ少なかれありますが、それは単にバブル時代の残像に過ぎないのではないかとすら思うことがあります。今の人はそんなことで無理したり痩せ我慢したりしません。自分が自然体のまま素直においしいと感じたものこそが正しいのです。だからいくら一部の人が「南インド料理ブームが来る」と言っても、実際にはそれはごく局所的なものに過ぎません。その代わり徹底的にローカライズが進んだインドネパール系のナンカレーは全国に広がりましたし、昔ながらの欧風カレー、ルーカレーはやや衰えたかもしれないけど、その代わりに、日本人の日本人による日本人のための新カレーである「スパイスカレー」はしっかり流行りました。 どこか最近の、日本で「洋楽」が売れなくなっている現象にも似た、ある種それは文化の成熟と呼んでもいいものなのかもしれません。 時代と共に嗜好が変化していくのは当然の前提として、今後それが「本場風」に染まっていくことは、少なくともしばらくの間は無いと思います。棲み分けというか分断というか共存というか、そういう形で進んでいくのではないでしょうか。個人的にはそのベルリンの壁を崩したい思いは常にあるんですけどね……。