お店でしか食べられないおいしいものというのは数多存在します。 しかし、家で作った方がおいしいものはそれ以上に多いと思っています。 ただしこれは決して、 「俺はその辺のプロを凌駕する技術の持ち主だ」 みたいな話ではありません。絶対に。 　 そうではなくて、プロというのはものすごい制約の中で料理を作ってるんです。 かけられる原価はとてもシビアです。そして常に安定した入荷量と価格をキープできる食材しか使えません。 オペレーション上の制約はもっとシビアです。いついかなる時も一定の時間内で提供する必要がありますし、だからといってロスは最小限に留めねばなりません。 その料理に「価格以上の価値」があることを誰にでもわかりやすくアピールする必要もあります。 そして何より、その料理は「最大多数の人々の好みに合う」ことが求められます。 　 高価格かつ小規模で、お客さん側ではなくお店やシェフに主導権があるようなお店なら、これらの制約はある程度取り除けます。 メニューは○万円のお任せコースオンリー、もちろん予約は必須で、カウンターのみで開始時間は決められていて一斉スタート、みたいなパターンですね。もちろんそういう店は、飲食店が負う様々なハンディからはある程度解放されます。それはそれでまた別のプレッシャーもあるわけですが、いずれにせよそういうスタイルの店は数ある飲食店の中ではほんの一握りに過ぎません。 　 なので極論すれば、 「店で食べるより家で自分で作って食べる方がうまいのはむしろ当たり前」 ということでいいと思います。 家なら原価の制約は遥かに緩く、好きな時に作ってすぐ食べることができて、形ばかりのハッタリは不要で、万人受けではなく自分好みをストレートに追求できるからです。 レビューサイトなんかで、千円やそこらのパスタランチを食べて 「これなら自分が作る方がよっぽどうまい」 と言ってる人をたまに見ますが（なぜかパスタはこの傾向が強い）、「そりゃそうでしょうよ」と言うしかありません。 　 僕は、まあこれはある種の職業病なのですが、家で一通りの数品からなる晩ごはんを作った時など、 「これをお店で出すならいくらになるかな」 と、計算することがあります。というかいつもしちゃいます。そうすると、焼き魚なんかを中心とする一汁三菜、とか、肉焼いて付け合わせ作って前菜がわりのサラダとスープ作って、みたいな、ごく日常的ななんてことない献立が、原価や仕事量から、どう考えても店なら4、5千円になるわけですね。ちょっと贅沢したらあっという間に万越えです。そしてその内容をそのまま店で出して売れるかというと、まず無理なわけです。 相談者さんの餃子も、多分まともに値段を付ければ「普通の餃子なのにそんなにするの？」みたいな価格になるんじゃないかと思います。 だから身も蓋もないことを言えば外食って、買い出しや後片付けも含めて面倒臭いことは全部やってくれて、なおかつそれをいつでも気が向いた時に楽しめる、というだけで（それがさほどおいしくなかっっとしても）充分すぎるほどの価値があると思います。 さらに、作った人は作ってる過程でなんとなく満足もしくはウンザリしちゃって、いざ食べるときはそれがどんなにおいしくてもどこか心置きなく楽しめない、という謎現象が起こることもしばしばです。 　 さらにそれだけでなく、飲食店ではその店が作り出す世界に浸り切れることもとても重要。調度に凝ったレストランはもちろんですが、床が滑る中華屋の餃子とか、おっちゃんたちと横並びでつまむ立ち飲み屋のモツ煮とか、たとえ家で同じもの、同等以上のものを作ったとしても世界までは再現できません。僕もそうですが、相談者さんのように酒の重要度が高いとそのありがたみはいや増しますね。 　 だから飲食店は、おいしかろうがさほどおいしく無かろうが、それで充分、といのが僕の考えです。単純によりうまいものを食べたいというだけの事なら家で作って食べればいい。（もしくはしかるべき店を予約する。） 　 最後にひとつ、これはちょっと特殊な感覚かもしれませんが、お店で食べる料理というのは、それと同じものを自分だけではなく他の多くの人々が同じように楽しんでいる、というある種の連帯感のようなものも魅力だと思っています。チェーン店ならそのスケールは桁がひとつふたつ増します。まさに「セカイと繋がる」感覚です。