
匿名
¥100
イナダさんの大好きなマクドナルドのフィレオフィッシュの大きな特徴として、バンズとフィッシュポーション部分の食感に違いがあまりなくシームレスな歯ごたえで口内が満たされる感じが自分はあります。逆に自分はそこが苦手だったりするんですが、イナダさんの食感に関する考えが伺いたいです。
「フィレオフィッシュのパラドックス」という言葉があります。知りませんよね。当然です。今、僕が思いつきました。 案外気付いていない人もいるかもしれないのですが、バーガーキングにもフィレオフィッシュ、というかフィッシュバーガーがあります。 当然バンズはこんがり焼かれており、フィッシュフライはコロモはサクサク中身はジューシーなお手本のようなフライです。なかなか手の込んだ味わいのタルタルソースはたっぷり入り、チーズはしっかり一枚、そしてバーキンならではのシャキシャキレタスも惜しみなく挟まれています。 はっきり言ってすごくおいしいです。しかも驚いたことに、フィレオフィッシュより安いのです。 どう考えても、頼りない衣に包まれたフライに、チーズは1/2枚しか入っていなくて、ひたすら酸味押しのシンプルすぎるタルタルソースがペラッと塗られているだけで、他には野菜も何も無しのフィレオフィッシュをあえて選ぶ理由はありません。 バーガーキングだけでなく、フレッシュネスもモスも、フィッシュバーガーは、少なくともフィレオフィッシュよりはおいしい。知る人ぞ知るコメダのフィッシュバーガーなんてほんと最高です。デカいし。 しかし僕の理性もそこまでです。 食べたくなるのはフィレオフィッシュ。 本当に一番おいしいのはフィレオフィッシュ。 一番おいしくないはずのフィレオフィッシュが一番おいしいのです。 これがフィレオフィッシュのパラドックスです。 海原雄山的に言うならば 「貧乏くさいミジメな食べ物だが、ミジメなりにバランスが取れておりそこそこ食えるものになっている」 とでもいったところかもしれませんが、そういうことでもない気がする。 確かにバランスは見事なんですよ。 頼りないフィッシュフライだからこそ、チーズは半分に抑えられている。そのぼんやりした中身を受け止めるのは、ぼんやりとスチームされた存在感の希薄なバンズ。その中でタルタルの妙に尖った酸味だけが、今俺は間違いなく何かを食べているのだ、という生の実感を辛うじて感じさせる。本当に職人芸的な見事なバランスです。このバランス無くしてフィレオフィッシュはフィレオフィッシュたり得ない。 しかしそういうことではないんです。 じゃあ何なのだと言われても、説明は不可能です。不可能だからパラドックスなのです。 ただそこにおいて、「シームレスな一体感」は確かに重要です。特にサクサクもシャキシャキもしておらず、全体がぼんやりしているからこそ、最初から最後まで、何にも惑わされることなく、心安らかに食べ進めることができて、そして気付かないうちにいつのまにか消失しているのです。そうしてその数分間はまるでなかったことのように、次に控えるダブチもしくはエグチ(いずれもケチャップ抜き)に手を伸ばすことになります。そうなるともう、フィレオフィッシュの味なんて忘却の彼方で、思い出そうにも思い出せません。しかし「実にうまかった。また食べたいものだ」という記憶だけが残像のように残ります。 それがフィレオフィッシュです。