
匿名
汁物が好きで、和食の椀物は毎日でも飲みたいくらい好きなのですが、ビストロや町中華には洋や中のスープが割とよくあるのに、和食の「アラカルトで椀物を出す店」が少なくて悲しいです。懐石のコースなんてそうそう行けませんが、普通の居酒屋や定食屋の汁物は味噌汁なんですよね…イナダさんは椀物欲をどうされていますか
僕もそれが昔から悲しくて、20年ほど前に居酒屋を立ち上げた時、メニューの一番目立つ位置に「季節の椀物」を置いたことがあります。 その店は「居酒屋の気軽さで割烹の料理を」というコンセプトだったこともあり、それはむしろ自然なことと考えており、「来店客のほとんどがまず頼む名物メニュー」となることを夢見ていたのですが、実際はさっぱり売れませんでした。 たまに売れると、それはグループにひとつで、「取り分ける器ください」と言われて悲しくなったりもしていました。 ちなみに当時もうひとつ全力で空振りしてしまったのが、醤油を付けて食べるのではない懐石風のお造りでした。 最近は割烹でもコースに椀物が含まれない店も少なくなく、心中「主役不在ではないか!」と悲しむこともあります。 とにかく椀物にはニーズがなく、また近年ますますそれは進行している印象です。 さて、こんなヨノナカで椀物欲を満たす方法は、限定的ではありますがいくつかあります。 例えば関西系の店を中心に「湯豆腐」があります。居酒屋のそれは基本的に、薄味のダシに豆腐がひたったものなので、ジェネリック椀物として起用可能です。 最近は肉吸いのある店も増えたので、それも選択肢となります。ただしそのほとんどはがっつり業務用白ダシで味付けされているため、椀物の代わりは務まりそうで務まらないのは残念。 古くからやってる居酒屋は、たまに汁系のメニューが残存していることがあります。「大衆割烹」みたいなヘッドがついている店は特に狙い目。打率は高くはないですが、それを狙うという手があります。「つみれ汁」があれば一安心。他に「○○豆腐」的な料理が、甘辛い醤油味ではなく吸い地で汁ダクに仕立てられていることがあります。 アラ汁が味噌ではなく澄ましのパターンもありますね。これは味噌であっても味噌が薄めが基本なので、なんとか気持ちを満たせます。 そういう店で人数が2人以上いれば、「鍋物」を椀替りとして積極的に起用します。 僕がよく行くある串焼き屋さんは、鰻を扱っているので、メニューに肝吸い単品があります。その店に行くとまず「串焼き2本と肝吸い」をオーダーします。 また、お通しが必ず椀物という店もあり、これらは僕にとってまさに砂漠のオアシスです。 しかしこれらいずれも、店選びからバクチであり、またアタリでも椀物欲が完全に満たせるとは限りません。 そんなわけで僕は、居酒屋よりも蕎麦屋を積極的に利用します。もちろん「ぬき」があるからです。椀物とはダシのタイプもアタリも全く異なるとはいえ、これはこれで同種の満足感を得やすいものです。椀物よりアツアツで量も多いという魅力もあります。 蕎麦屋といえば、ぬき以上に椀物寄りの料理として「鍋焼きうどん」があります。あれは一鉢に集約された懐石コースです。 蕎麦屋の活用としてはハイブリッドはしごもあります。一軒めで満たせない汁欲を満たすために蕎麦屋で締める。この時は素直にかけそば系にすることが多いです。「花巻き蕎麦」がこの場合もっとも相応しいと考えています。 ところが残念なことに、蕎麦屋さんは閉まるのが早い。一軒目を終えた時点でタイムアップとなっていることがほとんどです。 そんな時の選択肢はラーメンとなります。特に無化調を謳うような意識高い系の店のラーメンは最適と言ってもいい。澄んだスープに柚子と三つ葉が浮かんでいたりしたらそれはほぼ椀物です。 ただしラーメンはいかんせん量が多い。一杯の満足感を高めるために、チャーシューも多すぎるくらい入っており、「抜いてください」とは言い出しにくい場合も多い。 価格は同じでもいいから、半量のラーメンをイレギュラーではなく注文できる店が増えて欲しいと心から願っています。 しかし根本的にそれらでは結局、椀物欲を完全に満たせるわけではありませんね。真丈やしっかり下ごしらえされた椀種の代わりは、豆腐や麺では満たしきれません。椀物ブーム、来ないかなあ……来ませんね。