
でゅえろう
この世の中であまりにもポピュラーであるチキンカレーについて、自分は以前からどうも納得がいっていません。 カレーの持つ、スパイスの香りとパンチ、総合的な味の複雑さや主張の強さに対して、チキンは肉の味が淡白するし、食感も弱い。 そんな自分にチキンカレーの楽しみ方を教えてください。
先に欧風カレーに関して言えば、これは基本的に複雑で重い料理として進化してきました。技術的なベースはクラシックフレンチです。この種の料理には、やはり牛肉が一番よく合います。次点で豚でしょうか。 次にインドカレー。ベジまで話に含めるとややこしいので、ここではあくまでノンベジに限って進めます。 インドカレーは、軽いものから重いものまで様々です。羊肉は基本的に重めに作られます。欧風カレーで言うところの牛肉に匹敵するものと言えるでしょう。 軽くサラッとしたカレーにおいては、なんと言っても魚が王様です。そしてチキンはある意味オールマイティですが、言い換えればどっちつかずでもあります。あくまでパンチや複雑さのようなものをインドカレーに求めるのであれば、そこは羊肉一択でしょう。 ただしここで重要なことがあります。日本でい一般的なタイプのチキンカレーは、インド的視点から見るとやや独特だということです。 インドにおいて肉系カレーは、あくまで「肉料理」であり、主体は肉にあります。肉に最小限の副材料を加えて調理した結果、ある程度の量の汁(グレイヴィ)が副産物的に生成されます。典型的な例で言うと、肉800gから1000gのカレーが完成します。この場合、完成状態では、(肉は加熱で縮むので)肉600に汁400、みたいな割合になります。 日本だと、400gの肉が1000g程度のカレーになるのが主流です。こちらは肉主体と言うより汁主体と言えるでしょう。つまり、玉ねぎやトマトを中心とする副材料が目一杯まで増やされるということになります。 これは元来が汁好きの日本人に馴染みますし、どこかで欧風カレー(的なバランス)の幻影を追ったものとも言えるでしょう。 こういったカレーの場合、チキンは素材として極めて優秀です。なぜならば(少し意外かもしれませんが)、牛や羊よりチキンの方がずっとしっかりダシを放出してくれるからです。肉の割合が少ないカレーにおいて、このことはたいへん重要です。 極端な話、この場合のチキンは、味噌汁における煮干しのような存在でもあります。もう少しちゃんと言うと、豚汁の豚でしょうか。汁に貢献するための肉です。 なのでチキンカレーの楽しみ方としては、量を担保しつつ旨味が最大化された汁を楽しむということになり、まさしくこれは日本人が「カレー」に求めるものです。また、正直チキンカレーは、どんなカレーより原価を低くできます。みんなが幸せになるカレーです。 そんなチキンカレーも、チキンが骨付きのヒネ鶏とかなら、また少し話は違ってきます。また、よりインド的な、あくまで肉料理としてのチキンカレーに出会えたら、やはり印象は大きく変わるかもしれません。