数年前の夏、ハナマサで買い物してたら、バーベキューの買い出し部隊と思しき大学生男子3人がいました。 カゴの中を覗くと、案の定、その「大雑把なバーベキュー」待ったなしの内容でした。 僕は思わず彼らを呼び止め、 　 「ちょっと待て。お前らいったんカゴの中身は全部戻してこい。特にその『タレ漬け牛カルビ』、そいつぁ地獄への片道切符だ。金が無いのか。だったらむしろ豚メインで行け。浮いた金でちょっといい牛肉を買え。量は少しでいい。それを中盤、炭はいい感じに落ち着き、メンバーの小腹は満ちて、しかしグダグダになり始める前のタイミングを見計らってリリースしろ。その後また豚に戻れ。後半はバラじゃなくて肩ロースだ。衛生管理に自信があれば鶏という手もある。豚や鶏はタレじゃないぞ。クレイジーソルトとマキシマムだ。女子ウケもいいはずだ。並行してキノコも焼け。ズッキーニも評価を高めるぞ。しかしなんだそのナリばかりでかいソーセージは。見かけに踊らされるな。裏を見て『豚肉』の次に『塩』が買いてあるものを選べ。あとこの焼肉のタレ1.8リットルペットってお前らこれ飲む気か。タレはタレコーナーじゃない。チルドコーナーだ。割高だがどうせそうも使わん。このモヤシは焼きそば用か。わかってるじゃないか。しかし量が足らん。この倍、いや3倍だ。焼きそばソースはオイスターソースに取り替えてこい。金が余りそうならシーフードミックスと小松菜も足せ」 　 と、話しかけようかと思いましたがやめときました。 しかしもしかしたらバーベキューシーズンはハナマサに常時待機して、バーベキューコンシェルジュで稼げないかとふと思いました。 「報酬は、そうだな、買い物総額の10パーだ」 　 世界が求めているものは鍋奉行ならぬバーベキュー奉行なのではないでしょうか。いや、奉行の域を超えたエグゼクティブプロデューサーです。 相談者さんはそれになれば良いのです。 大雑把なバーベキューを矯正するだけではありません。こだわりのバーベキューに関しては、役者はある程度揃ってるわけですから、あとはシナリオと演出で、エンタメとしての完成度はどれだけでも高められるはずです。 　 ちゃんちゃん焼きという主役が企画段階で既に押し付けられているなら、バイプレイヤーを手堅く固めるべく、前菜としての肉と強肴としての肉をそれぞれ手配し、焼きリンゴはデザートという役割に固執せず場がグダグダになる前に焼き上げて、あくまで箸休めとしてプレゼンするよう演技指導し、スパイス各種を握りしめてメラメラと静かに昂っているカレー男には、 「南インドとかそういうの、いいから。カレー、あくまでカレー。お前ならわかってると思うけどさ」 と、目を見て穏やかに語りかけて、いったん落ち着かせる。 そんな敏腕プロデューサーを目指しましょう。 　 と言いたいところですが、世間はそんなものは求めていません。なぜならバーベキューには、バーベキューに必要以上のおいしさを求めていない人々が集うからです。 バーベキューの楽しみ方、それは、その時だけでいいから、自然を愛し仲間との絆をなによりも大事にするタイプのキャラになりきって、恥ずかしがらずに腹の底からウェーイと叫んでみたりする、そういうことなのではないでしょうか。