端的に言えば、ビリヤニが既に（それなりに）浸透しているから、ということが言えるかと思います。 これがもし10年前であれば、 「こんなの偽物だよ」 と山岡士郎っぽくキメる人もいたかもしれませんが、今となっては「それは悪手だ」と思うでしょう。よしんばいたとしても、 「本物を食わせてやりますよ。来週エリックサウスに……」 となり、むしろありがたいとも言えなくもありません。 　 またその時代であれば、 「これが典型的なビリヤニだと勘違いしてしまう人がいるかもしれない」 という批判もまた無視できません。いやむしろ僕でもそう言ったでしょう。 しかし少なくとも今の時点において、現実には勘違いする人はほとんどいないと思います。なぜなら、今回のビリヤニが広がれば広がるほど、同時に 「（ちゃんとした）お店で食べるものとはタイプが異なる」 という情報も自動的に広がり、勘違いは修正されるはずだからです。 　 もちろんその修正情報にアクセスしない人もいるでしょう。でもその人は、ビリヤニという食文化にさほど強い関心を抱かない人です。そういう人々が「へー、ビリヤニってこういうものなのね」という理解で止まったとしても、どこにも実害はありません。 逆にビリヤニをもっと探求したければ、エリックサウスもありますし、無い地域ならエリック通販もありますし、他のお店ももはや数限りなくあります。出版物もネット情報もいくらでもあります。10年前とは違うんです。 　 　 もうひとつ、これは少しメタな話になりますが、ビリヤニという料理の振れ幅を提示する、というメリットも感じていました。 ビリヤニにガーニッシュが常にあしらわれるかと言えばそんなことはありません。ライタが添えられるかどうかは地域にもよります。米もバスマティとは限りません。極端な話、麺のビリヤニ（セミヤビリヤニ）やパンのビリヤニ（ブレッドビリヤニ）も存在します。なのでそこに日本米のビリヤニがバリエーションとして加わってもいけないはずはありません。だから逆に言えば「日本米使用」という情報は、パッケージの最も目立つところに書かれる必要がありました。 　 もちろんそれらは「ビリヤニの中心軸」から大きく離れています。しかし、エリックサウス店舗のチキンビリヤニだって、あれはあれで中心軸からはいささか離れています。なのでエリックサウスの半数以上の店舗では、中心軸バリバリに位置するビリヤニ（骨つきマトンビリヤニ）も提供しているわけです。そこで既に責任を果たしているので、チキンビリヤニより更に中心軸から離れた「日本米ビリヤニ」も出せたとも言えます。 　 むしろ、日本で一番たくさん食べられているのはエリックサウスのチキンビリヤニです。（骨つきマトンビリヤニは、大多数の人に手を出してもらえるわけではありません。） そうなると、エリックサウスのチキンビリヤニが中心軸だと、それこそ「勘違い」してしまっている人は少なからずいるはずです。 これは本当はいけないことです。数の暴力です。香菜やミントやカシューナッツやレーズントッピングされるのが当たり前ではない。ライタが付くのが当たり前ではない。カレーが付く、しかも選択によってはサンバルやラッサムとも合わせられるのは当たり前どころの話ではない。もちろん味付けやスパイスもこれが当たり前という訳でもない。 だからそれもこれも含めて「バリエーションのひとつにすぎない」という相対化も進められたのではと密かに思っています。 　 　 最後、ここから先だけは僕は怒られても文句は言えないのですが、制約があるからこそ楽しい、という個人的な性癖もありました。ルールが厳しいからこそ現実をゲームとして楽しめる、みたいな、いささか不真面目な話です。 しかしその制約の中で最大のパフォーマンスを発揮できれば（今回本当に発揮できたかは神の味噌汁）、新しいおいしさだって誕生し得ます。それを多くの、今度は食べる側の人々が楽しんでもらえればそれでいいではないですか。 　 だから僕が最も望んだのは 「これはビリヤニなのかどうかはわからないがとりあえずおいしい」 というものでした。観測範囲ではおおむねその通りに着地しているようなので、とても満足しています。セブンさんの開発チームはスゲーっす！