匿名
どうして南インド料理なのにバターチキンもあるのですか。
南インドレストランにバターチキンやタンドールアイテムがあったり、チャナマサラやサグパニールに取り立てて南印的な特徴があるわけではなかったりというのは、インドでも日本でもよくあることです。インドであれば星付きホテルに入っているような大型高級店ほどそうだし、日本でもそういった店をモチーフにした店は少なくありません。ダクシンや今はなきダバインディアを思い浮かべていただけると良いかと思います。 これを「南北混交」と捉えるのはあまり正確ではないと思います。レストラン料理とローカル料理が両立していると見るべきでしょう。「レストラン」である以上レストラン料理を出すのは当然であり、しかし「南インド」を標榜する以上、ローカル料理も(必要ならレストラン的にアレンジした上で)提供します、という構造です。 内訳の比率は様々ですが、例えばダバインディアでは、いかに後者の比率を高めるかが明確に意識されていたと思います。後者の比率を高める分、それをレストラン的にアレンジする必要性も高まるため、言うなればそこがシェフの腕の見せ所でした。そこが素晴らしく優れていたのがあの店です。 これをレストランの世界と言うならば、一方でこれとは全く異なる「食堂」の世界もあります。「南インド料理」を最もストリクトに定義するならば「ヒンドゥ・ベジタリアンのローカル日常食」ということになります。この定義に則せば当然ビリヤニも(たとえそれがベジビリヤニであっても)枠からは外れます。提供するのはざっくり言うと「ベジミールスとティファンのみ」です。代表的なひとつが、世界中に支店を持つ「サラバナ・バワン」です。 サラバナ・バワンが日本にもできる、という噂は、昔から定期的に流れます。まるっきりのガセなのか多少根拠となる動きがあったのかは分かりませんが、X JAPANやマイブラの新譜がいつまで経っても出ないのと同じように、サラバナ・バワンが日本にできることはありません。 なぜできないかと言うと、それは日本人の嗜好やニーズとあまりにもかけ離れているからでしょう。ただ昨今の状況を見ると、新大久保あたりにひょこりできても不思議ではないような気もしなくもないですけど。 日本にこういう店(食堂)が全くなかったかというとそういうわけでもなく、例えばケララの風がそうです。逆に言うとケララの風がどんだけ尊い、凄い店か、ということになります。 こういうふうに一言で南インド料理と言っても、レストランの世界と食堂の世界があり、じゃあエリックサウスはどうかというと、これはどちらでもありません。ただし自分の認識としては、その「中間」と捉えています。 これはどういうことか。まず基本としては「レストラン」です。ただしそこから汎インドレストラン的な要素をほぼ排除しました。排除しましたっつーか、タンドールがないので自然とそうなったとも言えますし、専門的な話をするとオニオングレイヴィを排除したからでもあります。 しかしレストラン的な要素は最低限必要です。なぜならば、そこには「南インド」に特に興味があるわけではない、インド料理に慣れていない、おいしいカレーだけを求める方達も来てくれる、というかそれが大半だからです。そうやって最初にメニューを組んだ時に生き残ったのがバタチキであったりチキンティッカだったりです。何ならビリヤニだってそうです。 さてこの一連の話を通じて、ちょっと面白いことに気が付きました。 相談者さんの質問は、 「なぜ南インド料理なのにバターチキンもあるのですか?」 でしたが、もしこの質問が 「なぜ南インド料理なのにビリヤニもあるのですか?」 であっても、僕は全く同じ回答しただろうということです。