これはなかなか難しい問題で、僕の中でも答えは出ていません。しかし折角ですので、そこになんらかの答えを出すべく書き始めてみます。 　 まず前提として、あらゆる「個人の感想」には公益性があると思います。 もし僕がその「しょっぱい中華」の低評価レビューを目にしたとしたら、まず、甘みや旨みに頼らない味付けなのか、それとも白飯をがっつり食べたい人に支持されている店なのか、みたいな仮説を立てます。そして他のレビューや、メニュー、写真などから総合的にそれを判断します。前者だったらむしろ積極的にそこに行きたいと思うでしょうし、後者ならそこはノットフォーミーと判断します。 　 「シャリが団子」なら、僕は個人的に口に入れた瞬間ハラリとほぐれるよりも、程度にもよりますが、ある程度密度がある方がむしろ好きなので興味を引かれると共に、もしかしたら珍しくクラシックな仕事に出会えるかも、みたいな期待も抱くでしょう。もちろんこれも他の情報から推論が正しいかどうかを総合的に判断します。 　 しかし残念ながら、そんな念入りな検証を行う僕は異常者です。世の中のほとんどの人は、そこまで読み込むほど暇ではありませんし、そもそも世の中には様々なベクトルのおいしさがあることもあまり意識していません。おいしさは直線的な序列という世界観の方が支配的です。 　 なのでお店側から見ると、当然、低評価は嫌なものです。もちろんそこには改善のヒントとなる有用な提言が含まれていることもありますが、ほとんどの場合は「良かれと思ってやっていたことにケチを付けられた」としか思わないでしょう。 その場合、ある程度高評価が集まっている中に一風変わった低評価が紛れ込んでいるくらいなら諦めも付きますが、まだレビューが僅かしかない中のそれは、とんだ貰い事故です。叩いていい店というイメージが最初についてしまうと、そこは、軽微な不満を感じた人がそれをいくらでも指摘していい、場合によってはそれを針小棒大にして鬱憤を晴らしてもいい、そんな場になってしまいます。低評価レビューにはバタフライエフェクトがあるのです。 　 最初に書いた通り、相談者さんの「活動」には一定の意義があると思います。読む人にとってその店がノットフォーミーかどうかを判断するために情報のひとつになるし、もしかしたら万人が避けるべき「地雷」に警告を発するものである可能性だって無いわけではないでしょう。 しかしそれは相談者さんにとっての「作品」でもあります。単なる一情報を超えて優れたる作品に昇華させるなら、もし僕だったらその作品集のコンセプトを「俺の失敗日記」とでもするかな、と想像しました。 　 『孤独のグルメ』における井之頭氏は、ドラマでは店選びに失敗することはありませんが、原作漫画では割と失敗しています。不運や自分の判断ミスとして描かれるそれは、成功譚よりむしろ作品としての深みがあって面白いと僕は思っています。あれを目指すのです。 何らかの不満を感じた場合、そのほとんどは単なるノットフォーミーであり、店が「良かれと思って」のことなのですから、その「良かれ」がどこに向けられているのかを考察するのが第一歩目ということになります。そこから、なぜ自分はそれを判断できずにその店に入ってしまったのかの「内省」に入ります。 　 【食べ歩キストの失敗日記】 年間○○店以上を訪問する外食大好きな私が、店選びに失敗した時だけレビューを書きます！　失敗を無駄にせず、皆様の良き反面教師となれるよう頑張ります！！ 　 みたいな感じです。僕なら絶対読みますね笑 このフォーマットであれば、必要な（と相談者さんが判断する）情報はしっかり網羅した上で、それは読み物としてもおもしろいものになるでしょう。お店の人も、苦笑するしかありません。自分が「半可通」とか「勇者ウッカリさん」として蔑まれる危険性もかなり回避できそうです。失敗をテーマにすることで、普段はおいしい店を食べ歩いている自分のグルメっぷりもさりげなく逆接的にアピールできておトクです。そしてもし本物の地雷を扱った場合、イヤミとしての破壊力はむしろ増す上に、それは爆笑回、名作にもなり得ます。 もちろん難易度は高いと思います。経験も知識も表現力も必要でしょう。しかし本来、低評価レビューというものは、高評価レビューよりもずっと難しいものなのです。